本波幸一 of kyokusyoku

日本最強の釣り士・本波幸一

イトウ、サクラマス、アメマスの大物を追い続けている本波幸一は、“釣り士”と名乗る。
 本波幸一は、岩手県の浜辺の街の漁師の家に生まれたが、武士道の精神をまとい、寡黙に徹するほんものの士だ。魚と川を観察することから、本波幸一の釣りは始まる。魚の生態を理解し、川と自然を熟知し、そして魚と向き合う道具、竿とルアーは自分で作る。
 毎年、イトウを釣るために初夏と晩秋に北海道にやって来る。夜明け前、川面に立ち、雨が降ろうが、強風が吹こうが、暑くても寒さに凍えようが、50秒サイクルの正確無比なキャストを日暮れまで続ける。90㌢を越える大物のイトウがヒットしても冷静沈着に竿を操る。イトウが暴れ、大きな波飛沫をたてることもほとんどない。瞬く間にイトウを岸に寄せ、イトウに触ることなく、居合抜きのような早業でルアーの針を外す。
 本波幸一が表情を変えるのはリリースしたイトウが、流れの中へ姿を消すときだ。大物を釣った喜びなのか、イトウが元気に川へ戻った喜びなのか、なんともいえない笑顔を浮かべる。
 2010年初夏、3年間の南極通いから北海道に戻った私は、本波幸一がいる川を訪ねた。
「申し訳ない。撮影時間は30分しかありません。大物を釣って下さい」
 久しぶりの再開にひとしきり近況を語り合った後、本波幸一は、いつもの川面を見つめる冷静な表情に戻り竿を振った。その一投目、112㌢のイトウがヒットした。本波幸一、自己最高サイズのイトウである。撮影を終えると予定は5分過ぎ、私は本波幸一と別れ、もうひとりの釣り士が待つ川へ向かった。
 本波幸一の目標は、130㌢のイトウを釣ることだ。北海道の川には、まちがいなく130センチを超えるモンスター級のイトウがいる。日本最強、士のような釣り士、本波幸一。彼なら、130㌢のイトウを釣る。

あべみきお

Photograph