Abe Mikio-Photo of kyokusyoku

大地が果てる島・グリーンランド紀行 (2013年)
その1 ‐ 旅の始まり

 日本からデンマークの首都コペンハーゲンに飛びそこから北上して4時間余り、氷に覆われた北極圏のグリーンランドが現れた。世界最大の島で、面積は日本の6倍、人口はわずか5万人。
 この島で大地は果て、氷の下に消える。
 海に氷河が流出する景観が、世界自然遺産になっている漁業の街イルリサット。海氷に閉ざされていた海が開き、貨物船が北に向かって出港して行った。30人乗りの小型機でさらに1000kmを北上すると猛烈なスピードで溶け、消えていく氷河が見えてきた。地球温暖化が、紛れもない事実だと確信できそうな景観だった。
 巨大な氷のかたまりを氷河と言わず、氷床と呼ぶ。地球上にある氷床は、南極氷床とグリーンランド氷床の二つだけだ。二つの氷床の氷が溶ければ、世界の海水面は60㍍上昇すると言われている。去年7月、世界中の研究者が驚く事件が、グリーンランドで起きた。雨が降り、氷床全域が溶けたのだ。研究者の予測を超えるスピードで地球の異変が起きている。
 日本では北極の研究が遅れていた。国立極地研究所が中心となり、北極気候変動研究事業(GRENE)を一昨年からスタートさせ、国内35の研究機関、300人の研究者が北極の謎の解明に取り組み始めた。北海道大学低温科学研究所の氷河研究者、杉山慎講師はその一人だ。
この夏、杉山講師のグループ(5名)は、昨年に続きグリーンランド北西部で氷河調査を行うことになった。北海道テレビ放送(HTB)は、地球温暖化をテーマにした番組を制作することになり、私(阿部)はコーディネーター&カメラマンとして、HTB取材班に同行している。
 6月下旬、北緯77度、カナックという人口600人の村にたどり着いた。カナックでは、今でも犬そりとシーカヤックが生活の道具として使われている。そり曳き犬たちが村中に繋がれていて、ときおり遠吠えの共鳴を巻き起こす。細身で喫水の低いグリーンランド型のシーカヤックが家々にあり、クジラやアザラシ猟に使われている。エスキモーと呼ばれていたグリーンランドの先住民族カラーリックたちは、エンジン付きのボートでクジラやアザラシを獲ることを自主的に禁じ、伝統と文化を守っているという。
 カナックの沖合は、海氷が動き始めていた。大きな氷山が浅瀬に座礁したままだが、風が吹くと水路が開く。この夏最初のクジラがフィヨルドに入り、男たちがボートにシーカヤックを積み込み出漁していった。
 北海道テレビ取材班は、テントを張ってキャンプ生活だ。食料は、南極と宇宙のごちそう「極食」を食べている。明日、ヘリコプターで氷河へ移動し、本格的な観測が始まる。
 誰からも「こんにちは」、「ありがとう」という日本語が、笑顔とともに声かけられカナック。極北の夏が訪れたカナックをしばらく離れることになる。

 (2013年7月3日 北緯77度、白夜のカナックにて)

あべみきお

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